「子どもを受け入れる者」海老澤基嗣牧師
マルコによる福音書9章33-37節 2026年5月31日
2016年にトランプが大統領になったのは福音派の支持があったからです。そのときにアメリカ人の25%、4人に1人は福音派といわれました。その後も福音派の数はたいへん増えました。アメリカの福音派がアメリカの政治を左右する現実的な勢力となりました。その福音派とは何かということです。アメリカはキリスト教国家として建国された「新しいイスラエル」である。アメリカ・ファーストとかMAGA(メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン)というのは、やがて聖書の預言どおりにアメリカがイエス・キリストを中心とする「神の国」になることで、米軍はそのために敵対する諸国家、諸勢力を解体殲滅していかねばならないというのが福音派の「大義」です。福音派独特の「終末論」があり(ディスペンセーション主義といいますが)、ヨハネ黙示録のひとつの解釈で世界最終戦争に向かう過程でユダヤ人国家・イスラエルがイスラム諸国をせん滅する彼らの「大義」をアメリカは熱烈に応援する。やがて「世の終わり」となってイエス・キリストが「再臨」すると、「新しいエルサレム」に入場するイエス・キリストにユダヤ人たちはひざまずきキリスト教に改宗する。その新しきエルサレムに入場するキリストとドナルド・トランプが星条旗を背景に並んでいたりする。そういう画像が出回っていたりする。つまり、トランプと福音派はもうすでに世の終わりが切迫していて世界最終戦争に突入している。イラン戦争はその重大なステップであると考えています。
アメリカ福音派というものの今日に至るおおまかな流れを言いますと、アメリカのプロテスタントには長老派、会衆派、ルター派、メソジスト派といった諸派があります。福音派はそういうプロテスタントの一派ではなくてプロテスタント諸派を横断するかたちで既成教会を批判する運動として始まりました。原理主義とかファンダメンタリズム、聖書の言葉は神の言葉であって一字一句誤りのない真実だという立場から、リベラルなプロテスタント教会、神学を道徳的に堕落していると批判する。16世紀の宗教改革を思い出してみましょう。カトリック教会のローマ教皇絶対主義に対して、プロテスタントは「聖書主義」を打ち出しました。それまで聖書は聖職者が読むものでラテン語訳で一般民衆には理解できないものでした。それをルターがドイツ語訳聖書を刊行したように、フランス語、英語訳聖書というふうに一般民衆が自分の母国語で聖書を読めるようになった。これは宗教改革の素晴らしい成果でありました。ところが聖書の一言一句すべてが神の言葉だという原理主義は、イエス・キリストの生涯が中心だという聖書の読み方をぶち壊してしまうことがあります。それが今日のアメリカの「福音派」だと思います。
たとえばカトリック教会は人間の「科学」の進歩に対する抑圧をさかんに行いました。ガリレオ・ガリレイの「地動説」を宗教裁判で異端としたようにです。アメリカの「福音派」も科学の進歩をまったく認めません。聖書によれば天地創造とアダム・エバの人間創造は紀元前6000年ころ(旧約聖書の系図をさかのぼって彼らはそう計算する)なのに、科学は宇宙の誕生は138億年前だとか、サルが二足歩行してヒトになったのは700万年前だとかいう。聖書を否定する科学を学校教育で子どもたちに教えていいのか。それを認める教会は堕落している。この問題はとくにアメリカ南部では公教育で進化論を教えてはいけない、連邦政府がそれをするならキリスト教主義私立学校を建てて聖書教育を進めるというかたちで今も続いています。
ご存じのようにアメリカでは1860年代に南北戦争がありました。黒人奴隷をこき使うプランテーション農業、綿花栽培で栄えた「南部」が、黒人を解放し都市労働者にしようとする近代工業主義の「北部」に負けます。北部のリンカーンが勝って「奴隷解放宣言」を発表しました。しかし南部のキリスト教徒たちは納得しません。人種差別と中絶禁止の促進が彼らの最優先問題となります。なぜならそれは「聖書に書かれている」と彼らは聖書のあちこちを引用します。これがアメリカ「福音派」の源流であります。中絶問題は彼らにとっては女性や胎児のいのちというより家父長制度のなかに女性や子どもを縛り付けるために、中絶禁止法が必要なのです。連邦政府や既成教会が黒人の人権や女性の解放・フェミニズムを容認するのに対して猛反発して、福音派は「古き良きアメリカ」の復活をめざして政治運動を強化し、共和党を乗っ取り大統領を操るほどの勢力になったのです。イスラエルを支持するアメリカのユダヤ人たちやキリスト教シオニストたちと協力して今日のイラン戦争に乗り出しているわけです。
アメリカの福音派、エヴァンジェリカル、いかがでしょうか。そもそも彼らの「福音」って何でしょうか。彼らは福音ということをまるっきり勘違いしています。